2015年2月10日火曜日

モーセの召命(出エジプト記 2)

 エジプトからミディアンに逃れたモーセは、結婚して羊の世話をして暮らすようになった。彼は羊を追って「神の山」に入り込み、そこで神の声を聞く。神はモーセに「エジプトに戻ってイスラエルの民を導きカナンまで連れて行け」と命じた。

 エジプトを逃れたモーセはミディアン(現在のサウジアラビア北西部)までたどり着くと、ひとつの井戸の近くで休んでいた。やがてそこにたくさんの羊を連れてやって来たのは、地元の祭司エトロの娘たちだ。彼女たちは羊に水を飲ませようとするが、ここではいつも別の羊飼いたちから嫌がらせを受け、必要以上に足止めされてしまうのが常だ。その日も娘たちは羊飼いたちからひどい嫌がらせを受けていた。モーセはしばらくこの様子を見ていたが、事情が余りよく飲み込めないよそ者の目から見ても、羊飼いの娘たちへの態度は目に余るものがあった。力を持つ者が弱い者いじめをするのを見ると、黙っていられない性格のモーセだ。自分の立場やその後の成り行きなどを考える前に、まず体が動いてしまう。モーセは両者の間に割って入ると羊飼いたちを追い払い、娘たちの連れた羊に水を飲ませるのを手伝った。

 娘たちがいつもよりずっと早く帰ってきたことに驚いたエトロは、娘たちから事情を聞くとすぐにモーセを家に招いた。モーセはこのことをきっかけにエトロの家の客人となり、やがてエトロの娘ツィポラと結婚してその地に長く留まることになった。夫婦の間には息子も生まれ、モーセにとってエジプトでの暮らしは遠い過去のことになっていく。ミディアンの地にいても、エジプトで何が起きているかは商人や旅人たちの口を通じて伝わってくる。エジプトでは王が死んで新しい王が即位したという。だが新王の世になってもヘブライ人の重労働は続いているという。そんな話を聞いても、今のモーセにとってエジプトは遠い外国だった。今はこのミディアンで、日々の暮らしを立てていかなければならない。義父エトロの羊を世話するのが、モーセの仕事なのだから。

 羊の世話は重労働だ。たくさんの羊を見守りながら、数十キロ、数百キロもの距離を移動していく。モーセはミディアンからシナイ半島を南下し、地元の者たちが「神の山」と呼ぶホレブに足を踏み入れた。すると目の前で、小さな雑木が炎に包まれている。モーセはそれを見てひどく不思議に思った。乾燥地帯では何かの拍子に、雑木や枯れ草に火が付くことがある。だから雑木が燃えていること自体は不思議ではない。不思議なのはそれがいつまでたっても燃え尽きないことだ。「なぜ木は燃え尽きないのだろうか?」。モーセが様子を見ようと近づくと、燃える炎の中からモーセに呼びかける声が聞こえた。

 「モーセよ。ここに近寄ってはならない。まずお前の履物を脱げ。お前の立っている場所は、聖なる場所だからだ!」。モーセは驚いて後ずさりしながら、炎を見つめた。すると炎の中からまた声が聞こえた。「わたしはお前の祖先たちの神。アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である。わたしはエジプトにいるわたしの民の苦しみを見、その叫びを聞いた。わたしは彼らをエジプトから救い出し、乳と蜜の流れるカナンの土地へと導き上げる。モーセよ。お前はエジプトに行って、わが民イスラエルをエジプトから導き出すのだ!」。モーセは神を見ることを恐れて顔を伏せると、神に向かって言った。「わたしにそんなことできっこありません」。

 神は言った。「モーセよ。わたしはいつも必ずお前と一緒にいる。お前が民をエジプトから脱出させた後、お前たちはこの山でわたしと契約を結ぶことになるだろう」。「待ってください。わたしがイスラエルの人々のところに行って『わたしは神から遣わされた』と言っても、みんなまともに取り合ってくれるはずがありません。だいたい『神の名は何だ』と問われたら、わたしはどう答えればいいんですか」。神は答えた。「わたしは『ある』というものだ。イスラエルの人々が神の名をたずねたら、『わたしはある、という方がわたしを遣わした』と答えればよい。またこうも言いなさい。『わたしたちの先祖の神、アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である主が、わたしをここに遣わしたのだ』と。お前は行ってイスラエルの長老たちを集め、わたしの言葉をそのまま伝えればよい。そして長老たちと一緒にエジプト王のもとに出向き、『荒野へ行って神に生贄を捧げさせてください』と言うのだ。だがエジプト王の心はかたくなで、お前の言うことを聞かないだろう。しかしわたしはエジプト中にさまざまな災いを起こして、王がお前たちをエジプトの地から立ち去らせるようにする」。「しかし」とモーセは言った。「わたしはエジプトを離れてもうだいぶたちます。人々がわたしを信用するはずないのです。むしろ『お前なんかに神の何がわかるのか』と言われるのが落ちです」。

 「お前が手に持っているのは何だ」と神はモーセに言った。モーセの手には、羊を追ったり、獣から身を守るときに使う杖が握られている。「それを地に投げるのだ」。神に言われたとおりに杖を地に投げると、杖は突然蛇になった。「手を伸ばして尻尾をつかめ」。命じられたとおりにモーセが蛇の尻尾をつかむと、蛇は再び杖に戻った。「この奇跡を見れば、民の半分はお前を信じるようになる」。だがモーセは不安だった。「残りの半分はどうするんですか」。神は答えた。「手を一度懐に入れてから、また出してみなさい」。モーセが言われたとおりにすると、手は重い皮膚病にかかって真っ白になっていた。「お前の手を再度懐に入れるのだ」。モーセが言われたとおりにすると、手はすっかりもとに戻っていた。「最初の奇跡を信じない者も、これを見せれば信じる。だがそれでも信じない者がいるなら、ナイル川の水を乾いた土にぶちまけろ。そうするだけで、水は血になるだろう」。

 「ああ、しかし主よ。ご存じだとは思いますが、わたしはひどい口下手なのです。イスラエルの人たちを前にしても、ファラオを前にしても、自分で思ったように喋れるとは思えません」。神はモーセが自分の命令からひたすら逃げ出そうとしていることに腹を立てた。「人に口や声を与えたのもわたしなら、人から声を奪うのもわたしだ。わたしは常にお前と共にいる。お前の口は常に主であるわたしと共にある。お前はただ言うべきことを、教えられたとおりに言えばそれで構わないのだ」。「ああ、しかし主よ。わたしにはやはり荷が重いのです。どうか他の人を遣わしてください」。ついに神は怒りを爆発させる。「口が重い、舌が重いと言うくせに、逃げ口上の言い訳だけは次々に出てくるではないか。よかろう。お前の兄アロンは雄弁だ。間もなく彼がお前に会うためここにやって来る。お前はわたしが語った言葉を、彼を通して民に伝えるのだ。彼はお前の口となり、お前は彼にとって神のようになる」。

 ミディアンに戻ったモーセは、義父のエトロに「一度故郷のエジプトに戻り、親族がまだ生きているなら会って話したいと思います」と言った。エトロはモーセのエジプト行きを了解し、その旅路を祝福した。モーセはろばに妻と子供たちを乗せてミディアンを出発する。彼らが神の山ホレブに着くと、そこにはモーセの兄アロンがやって来ていた。彼はこの少し前に天の使いから「荒れ野で弟モーセに会え」と命じられていたのだ。兄弟は再会を喜んで抱き合い接吻し、モーセは自分に与えられた使命について語った。アロンはモーセの言葉を信じ、彼を連れてエジプトに戻ると、彼をイスラエルの長老たち全員に紹介した。半信半疑だった長老たちも、モーセの見せる奇跡と、アロンの力強い説得の言葉に心を動かさていった。「主なる神が、われわれをこの奴隷の身から救い出してくださる」。人々はその知らせに喜び、ひざまずいて神を礼拝した。

(出エジプト記2~4章)

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