聖書を1冊だけ買うならどれがいい?
「聖書がほしいんですがどの聖書を買えばいいですか?」と言う人がいるのだが、それに対する僕の答えは決まっている。
「もし教会に通いたいと思っているのなら、まず手ぶらで教会に行って聖書を借りればいい。その教会が気に入ったら、そこで使っているのと同じ聖書を買えばいい」
「しかし教会に通ったり信仰を持つつもりがなく、純粋に興味や好奇心から聖書を読んでみたいと思うのであれば、日本聖書協会から出ている新共同訳聖書、その中でも旧約聖書続編つき、引照つきを買うべきです。サイズは中型がいいでしょう。革装である必要はありません」
新共同訳の旧約続編つき・引照つきが究極の1冊
新共同訳聖書に対しては「あれは訳文がだな〜」とあれこれ文句を言う人も多い。それは十分に承知した上でこれを薦めるのは、これ1冊あれば聖書の全部がまかなえるからだ。
プロテスタントとカトリックでは、聖書に含まれている文書数が違う。簡単に言ってしまうなら、カトリックの文書数が多いのだ。聖公会はもっと多い。そのためプロテスタント教会で使っている聖書を持っていても、西洋キリスト教絵画や映画などを観たとき「この話は聖書に出ているはずなのに、俺の持っている聖書には載ってないぞ?」ということになりがちなのだ。
これを避けるためには「全部入り」の聖書を1冊持っているのがいい。プロテスタントの聖書に含まれず、カトリックや聖公会の聖書にのみ含まれている部分をプロテスタント側は「外典」と呼ぶ。だがこれらはカトリックや聖公会では正典の外にある「外典」ではなく正典の一部だ。そのため日本聖書協会はこれらについて、「旧約聖書続編」という名前を付けて売っている。
日本聖書協会は大まかに3種類の日本語訳聖書を売っている。大正時代から戦後まで使われていた文語訳、戦後使われるようになった口語訳、その後カトリックとの共同で翻訳した新共同訳だ。文語訳や口語訳には「続編」がない。そのため続編が読みたければ新共同訳しか選べない。
日本聖書教会以外で比較的ポピュラーな聖書には、福音派系のプロテスタント教会が使っている「新改訳」がある。これはプロテスタント系の聖書なので続編はない。したがって続編つきの聖書を読みたいなら、ほぼ自動的に「新共同訳聖書 旧約聖書続編つき」になるわけだ。
引照つきのメリット
日本聖書協会からは新共同訳だけで何十種類もの聖書を売っていて、その中には続編つきのものも数多くある。その中からなぜ「引照つき」を薦めるかと言えば、聖書は本文を相互参照して読むのが普通だと思っているからだ。そのためには引照がついていると便利だ。
聖書のある箇所を読んでいて「これは以前にどこかで同じような話を読んだぞ」と思ったら、引照から該当箇所を探す。するとはたして似たようなことが書いてある。これを相互に比較しながら、聖書本文の理解は深まっていくわけだ。
引照つき聖書が売り切れのまま?
英語の聖書だと引照つきが当たり前に売られているのだが、日本の聖書は引照つきがあまりポピュラーではない。これについて僕は「ひどい」と常々思っている。僕が薦める「新共同訳 旧約聖書続編つき 引照つき」も日本聖書協会では現在売り切れ状態だ。おそらく増刷の予定もないのだろう。
これは以前も長らく品切れ状態が続き、数年前にようやく新しいものが出たのに、また品切れになればそれっきり。おそらく今後も数年はこのままだろうが、日本聖書協会の聖書は数年後に「標準訳」を出すと言っているから、その後は新共同訳のラインナップが整理されて引照つきは売られなくなってしまうかもしれない。
日本聖書協会は「イラストを入れました」とか「サムインデックス付けました」とか「表紙のデザインに工夫しました」などとさまざまな判型や装丁の聖書を出すのに熱心なのだが、それよりもベーシックな聖書を品切れにすることなくきちんと出し続けてほしいと思う。
聖書協会は発売点数を整理すべき
だいたい引照つき聖書の値段を割高にするのがケシカランのだ。昔は聖書を印刷するのに1文字ずつ活字を拾っていたから、引照を付ければその手間の分だけ値段が高くなるのは理解できた。でも聖書だって今はオフセット印刷だ。デザインやレイアウトだって電子組版だ。こんなもの一度データを作ってしまえば、あとの印刷費用は引照があろうがなかろうが紙代とインク代だけで変わらないではないか。
日本は英語圏ほど大量に聖書が売れるわけではない。薄くて丈夫な紙に印刷して分厚く束ねる聖書は、普通の書籍よりもずっと手間もかかる。しかしそれなら余計に、あれこれデザイン違いの聖書を出して「多品種少量販売」みたいなことをして値段を高くするのはよしてほしい。聖書のラインナップは整理して、それぞれの部数を多くした方が安くできるのではないだろうか。
新共同訳聖書に関して言えば、続編つきと続編なしの2系統。サイズは小型・中型・大型の3種類。サイズによって内容は、小型はソフトカバーで引照なし、中型はソフトカバーで引照付きのみ、大型はハードカバーで引照付きのみとしてしまえばいい。販売される聖書はこれで6種類しかない。
この6種類については大量に印刷するかわり、値段をずっと下げればいい。英語聖書並みにとは言わないまでも、現在より3割ぐらいは値段を下げて出すことができるのではないだろうか。
逆にこの6種類からはみ出すものについては、「趣味的なもの」と割り切って値段をずっと上げてしまえばいい。とにかく引照付き聖書の品切れ状態は情けない話だ。
フランシスコ会訳もお薦め
というわけで現在は新共同訳聖書の続編・引照付きが買えないので、「聖書がほしいんですがどの聖書を買えばいいですか?」という質問に対しては別の答えを考えなければならない。とりあえず「全部入り」であれば、新共同訳の引照なしのものを買うのが一番安上がり。しかし読み物として解説が添えてある聖書なら、サンパウロから出ているフランシスコ会訳がお薦めかもしれない。
これはカトリック系の訳なので、少なくともカトリックが正典としている範囲はすべて網羅されている。ただし聖公会での使用は当然考慮されていないので、日本聖書協会の旧約聖書続編つきよりは文書数が少ない。また文書の配列がカトリック聖書の標準的な配列になっているので、プロテスタントの聖書に慣れている人は戸惑うかもしれない。
しかしこれは「教会に行く気はない」人に限定の選択だ。フランシスコ会訳は現時点でどの教会でも使われていない聖書だから、教会に通うとなれば別に新しい聖書を買わなければならない。
フランシスコ会聖書研究所
サンパウロ
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