2015年2月11日水曜日

ファラオの前へ(出エジプト記 3)

 モーセは兄アロンと共にエジプト王に謁見すると、砂漠で神に生け贄を捧げる儀式を行うため、ヘブライ人たちがエジプトを出ることを許してくれと申し出る。だがファラオはこれに激怒し、ヘブライ人奴隷たちの仕事をさらに増やすよう命じるのだった。

 モーセと彼の兄アロンの家系をさかのぼると、イスラエル(ヤコブ)の三男レビに行き着く。レビはイスラエル十二部族のひとつレビ族の祖だが、アロンはレビの嫡流の曾孫にあたり、エジプトで暮らすイスラエルの民の中でも名の知れた男だった。モーセは兄アロンを後見人としてイスラエルの長老たちに迎えられ、エジプト王ファラオに謁見することとなった。

 「ファラオに申し上げます。我々イスラエルの民が、荒れ野で主のための祭りを行うことを許可していただきたいのです」。モーセの言葉にファラオは答えた。「主とは何者だ。なぜそのような祭りを行う必要があるのだ」。モーセは言った。「主とは我々ヘブライ人の神であり、今回の申し出は主ご自身がわたしを通じてファラオにご命じになっていることです。我々はここから3日の距離にある荒れ野まで出かけ、主の祭壇に生贄を捧げなければなりません。ファラオにこれを許していただけない場合、神はおそらく疫病か剣でエジプトを滅ぼそうとなさるに違いありません」。ファラオは奴隷であるヘブライ人からのこの申し出に腹を立てた。「わたしは主などという神を知らぬ。見ず知らずの神のために、なぜわたしが祭りの便宜をはかる必要があるのだ。お前たちは奴隷の身でありながら、このファラオに指図しようというのか!」。

 ファラオは奴隷を使役する役人たちを怒鳴りつけた。「お前たちの監督が甘いから、ヘブライの奴隷たちがつけ上がるのだ。奴らの暮らしに余裕があればこそ、自分たちの神に犠牲を献げたいなどと言い出したのであろう。おそらく誰かが奴隷たちに、よからぬ入れ知恵をしたに違いない。これからはレンガを作るためのわらを、彼らに与えてはならぬ。わらは彼ら自身に集めさせるのだ。ただしそれによって、作るべきレンガの数を減らすことは許さぬ。仕事がきつくなれば、愚かな言葉に耳を傾けることもなくなるであろう」。この命令はただちに実行され、イスラエル人たちはエジプト中でわらを集め回らねばならなくなった。そのことでレンガ作りの作業が遅れると、役人たちは容赦なく鞭を振るう。人々の恨みはファラオや役人たちではなく、モーセとアロンに向けられた。「お前たちが余計なことをしたせいで、我々はファラオと家来たちからこれまで以上の苦しみを受けることになってしまったではないか。奴隷の身から救い出すなどとんでもない。かえって苦しみが増すばかりだ」。モーセはこの声に対して、一言の反論もできなかった。

 だがそんなモーセに神が語りかけた。「わたしはエジプトで奴隷となっているイスラエルの民の苦しみの声を聞き、あなたがたの祖先アブラハム、イサク、ヤコブと交わした契約を思い出したのだ。わたしはイスラエルの民をエジプトから救い出し、カナンの土地を与える。そのようにイスラエルの人々に伝えなさい」。だが日々の労働で疲れ切っている人々は、もはやモーせの言葉に耳を傾ける余裕もなかった。神はモーセに言った。「あなたは再びファラオのもとに出向き、イスラエルの人々を去らせるように説得しなければならない」。モーセは言った。「イスラエルの人たちですらわたしの話を聞いてくれないのに、どうしてわたしがファラオを説得できるでしょうか」。

 神はモーセに答えた。「あなたの兄アロンが、あなたの預言者となる。わたしの言葉をあなたが語れば、アロンがイスラエルの人々やファラオを説得するだろう。だがわたしは今しばらくの間、ファラオの心をかたくなにする。どのような不思議や奇跡を見ても、ファラオはあなたの言うことを聞かないだろう。だがわたしが手を伸ばしてイスラエルの民をすべてエジプトから導き出した時、エジプト人はわたしが神であることを知る事になる」。

 モーセとアロンは再びファラオの前に立った。ファラオはモーセたちの言葉には何の関心も持たなかったが、モーセに対して「もしお前が本当に神の使命を受けているのであれば、その証拠に何か奇跡を行ってみよ」と言った。モーセが兄アロンに「あなたの杖をファラオの前に投げなさい」と言い、アロンがその通りにすると、アロンの手を離れた杖はその場で蛇になった。ファラオに仕える魔術師は秘術を使って同じように杖を蛇に変えたが、アロンの蛇はファラオの蛇を噛み殺して飲み込んでしまった。この様子を見たファラオの心はかたくなになり、ヘブライ人を去らせることを許すことはなかった。

 このときモーセは80歳、アロンは83歳だった。

(出エジプト記 5章~7章)

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