2015年2月13日金曜日

主の過ぎ越し(出エジプト記 5)

 神は最後の災いとして、エジプト中のすべての初子を殺した。だが戸口の柱と鴨居に小羊の血を塗ったイスラエルの民の家は、この災いを過ぎ越すことが出来た。王はこの災いの後、ついにイスラエルの民がエジプトから出て行くことを許可する。

 神はモーセを通じて次々とエジプトに災いを下し、神の力を畏れるならイスラエルの民をエジプトから去らせるようにと警告した。エジプト中の水は血に変わった。大量のカエルが、ブヨが、アブが人々を悩ませた。家畜の伝染病によって大きな被害を受け、腫れ物によって人々は苦しめられた。雹(ひょう)が降り、イナゴが残る作物を食らいつくし、暗黒が地を覆いつくした。だがこうした奇跡を見るほどにファラオの心はかたくなになり、イスラエルの民をエジプトから去らせることはなかった。ついに神は最後となる10番目の災いをエジプトに下すことを決めた。モーセはファラオにこう警告した。

 「今月の14日の真夜中、わたしたちの主なる神がエジプトの中をお進みになります。その時エジプトの中にいる初子(ういご)は残らず死ぬでしょう。父と母の間に最初に生まれた子供は誰であれ、ファラオの子供であれ、台所で臼を引く奴隷の子供であれ、身分の違いに関わらず必ず死ぬのです。死ぬのは人間だけではありません。家畜の初子も残らず死にます。この時、エジプト中は大きな悲しみと苦しみの声に満たされるでしょう。しかしイスラエルの民は、この災いを逃れます。人であれ、家畜であれ、犬の子1匹たりとも、この災いを受けることはありません。これを御覧になれば、ファラオも神を畏れてわたしたちをこの国から去らせてくださることでしょう」。だがファラオはこのモーセの警告を無視した。

 神はモーセに告げた。「わたしがこれから行うことは、イスラエルの民にとって忘れられないものとなるだろう。この出来事によって、ファラオはあなたがたを奴隷の身分から解き放つからだ。だからあなたがたはこれから行われることをよく記憶し、子々孫々に至るまで語り継がなければならない。この月をあなたがたの正月として、年の始まりとしなさい」。

 次に神は、イスラエルの民が災いを避ける方法をモーセに教えた。「今月の10日になったら、各家族ごとに傷のない1歳の小羊、または子山羊を用意しなさい。14日の夕暮れにはその小羊を屠り、その血を家の入口の2本の柱と鴨居に塗っておくのだ。これがわたしに対する目印となる。家の中の者は、次の朝になるまで決して家から出てはならない。家の中では屠った小羊の肉を、家族全員で食べなさい。生のまま食べたり、煮て食べたりするのではなく、必ず焼いて、酵母を入れずに焼いたパンと、苦菜を添えて食べるのだ。食べる時はくつろいだ姿で食べてはならない。いつでも旅立てるよう、腰帯を締め、靴を履き、杖を手にして急いで食べなさい。14日の真夜中にわたしはエジプト中を進んで初子の命を奪うが、家の入口に血の目印があり、家の中で定められた食事をしている家があれば、わたしはそこを通り過ぎて次の家に向かう。わたしはイスラエルの民の家を飛び越えて、そこに災いを下すことは決してない。だからあなたがたはこの日を記念すべき日、《過越の祭》として、子供や孫たちにもこの出来事を伝えなければならない。また過越の祭の翌日から7日間は、酵母を入れずに焼いたパンを食べる《除酵祭》を行うのだ。あなたとその子孫たちはこのことをよく憶えておき、子供たちからこれらの祭の理由を尋ねられた時にはよく語って聞かせねばならない」。

 モーセとアロンから神の命令を伝えられた人々は、早速家に戻ってそれぞれの準備を始めた。14日の真夜中になると、神はエジプトの地を進んですべての初子を打ち、ファラオの家であれ、家臣たちの家であれ、あらゆるエジプト人の家では悲鳴が上がった。だが神はイスラエルの家の前を通り過ぎ、ひとりの犠牲者も出ることはなかった。ファラオはまだ夜が明ける前であるにも関わらず、ただちにモーセを宮殿に呼び出した。このままでは、エジプト中の人と家畜が殺されてしまうと考えたのだ。「もうたくさんだ。今すぐこのエジプトから出て行き、お前たちが願っていたとおり、自分たちの神に仕えるがいい。羊や牛も連れて行け」。モーセはただちにイスラエルの人々の所に戻って、ファラオの言葉を伝えた。イスラエル人たちはそれぞれの家族の荷物をまとめて家を出ただけでなく、近所のエジプト人たちから金銀の装飾品や衣類など、多くの贈り物を受け取ることができた。エジプト人たちは最後にイスラエル人たちに親切にすることで、自分たちにそれ以上神の災いが降りかからないことを願ったのだ。

 こうして長年エジプトで奴隷状態にあったイスラエルの民は、モーセに率いられてエジプトを旅立った。その数は子供や老人を除いた壮年男子だけでおよそ60万人。これにそれぞれの家族と、羊や牛などの家畜が加わった。この日はヨセフとその家族たちがエジプトに来てから、430年の月日がたっていた。

 以上が出エジプト記に記されている主の過越の記述だ。これを記念するため毎年行うように命じられている《過越の祭》と《除酵祭》は、今でもユダヤ教の重要な祭として守られている。

 ヘブライ語でペサハ、ギリシャ語ではパスハと呼ばれる過越祭は、キリスト教でも重要な意味を持っている。イエス・キリストが過越祭の頃にエルサレムで逮捕処刑され、その後復活したとされることから、キリスト教の復活祭(イースター)が過越祭と関連づけて行われているのだ。東方教会では復活祭のことを「パスハ」と呼んでいる。かつてはユダヤ教の過越祭を基準にして、その直後の日曜日に祝われていたキリスト教の復活祭だが、現在はユダヤ教の暦を離れて独自の算定方法によって日付が決められている。その算定方法は「春分後の最初の満月の次の日曜日を復活祭とする」というもの。今年はグレゴリオ暦を使う西方教会で3月31日が復活祭だが、ユリウス暦を使用する正教会では1ヶ月以上遅い5月5日が復活大祭になる。

(出エジプト記11章~13章)

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